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福岡高等裁判所 昭和35年(て)11号 判決 1960年1月03日

請求人 古賀春之助

主文

請求人に対する当裁判所昭和三四年(う)第一、〇七二号鉱業法違反被告事件につき、昭和三十四年十二月九日当裁判所で言渡した控訴棄却の判決に対し、請求人のため上訴権を回復する。

理由

本件上訴権回復請求の理由は、請求人は同人に対する当裁判所昭和三四年(う)第一、〇七二号鉱業法違反被告事件につき、昭和三十四年十二月九日当裁判所において控訴棄却の判決言渡を受けたが、不服であつたので上告の申立をなすべく、同月十八日唐津郵便局より書留郵便をもつて当裁判所にあて上告状を送付したところ、右上告状は同月二十四日当裁判所に到着したため、明らかに上訴権消滅後の上訴申立であるとして上告申立棄却の決定を受けた。しかし普通であれば右上告状は同月十九日には当裁判所に到着する筈で、これが遅延したのは全く郵便局の過失によるもので、請求人の責に帰すべき事由によるものではないから、上訴権の回復を求めるため本請求に及んだ、というのである。

よつて按ずるに、請求人に対する当裁判所昭和三四年(う)第一、〇七二号鉱業法違反被告事件記録によると、請求人は、右被告事件につき、昭和三十四年十二月九日当裁判所で控訴棄却の判決言渡を受けこれに対し上告の申立をなしたが、その上告申立書たる上告状は同月二十四日当裁判所に到達受理せられたゝめ、法定の上告申立期間を一日経過しており、よつて翌二十五日当裁判所において該上告申立は明らかに上告権消滅後になされた不適法のものであるとして刑事訴訟法第四百十四条、第三百七十五条により上告申立棄却の決定を受けたことが明らかである。しかし該上告状封入の封筒の記載によると、右上告状は同月十八日午後零時より六時までの間において佐賀県唐津郵便局において同郵便局第二〇一号書留普通郵便として受け付けられておることが認められ、更に本件上訴権回復請求書添付の同郵便局郵便課長八山初太郎の証明書によると、右書留普通郵便は同日午後六時三十四分同郵便局発福伊上二便により福岡中央郵便局宛送付せられたことが窺われるので、同日中には福岡中央郵便局に到着したものと認められ、同日中に福岡中央郵便局に到着した郵便物であれば、普通の経過においては、翌十九日中には当裁判所に配達されるものと思われる。尤も当時郵便局従業員の争議行為が行われており、そのため一般に郵便物が遅配されていたことは公知の事実であり、被告人においても幾日か遅配されることは当然予想すべきであつたが、配達を全く停止されていた訳ではないので、これが上告申立最終日たる同月二十三日までの五日間に当裁判所に配達されず、翌二十四日にいたり漸く配達受理されたのは、全く郵便局の懈怠によるものであつて、被告人の予期できなかつたことゝ言うべく、本件上告申立期間の徒過は、被告人の責に帰することのできない事由によるものであることが明らかであるから、本件請求は理由あり、請求人のため本件上訴権を回復するのが相当である。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 青木亮忠 木下春雄 内田八朔)

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